人柄と言行
石川理紀之助翁が農聖といわれるのは、単に農業経済の指導者としてだけではなく、
人間石川理紀之助として、人柄に由来するものが大きい。
石川理紀之助翁。石川翁資料館パンフレット表紙より、晩年における翁の外出着姿。
頭巾、白毛布、ワラ靴など、その風貌には、いずれも翁の人柄を偲ばせる。
石川理紀之助翁が著したという吉凶屏風が資料館の中に展示されている。これは石川理紀之助翁が61才の時、
山田村の人々に残すべき訓書として書いて作った屏風である。
現代にも十分通じるものもある訓言といえるのではないだろうか。
吉凶屏風訓言
天地の御恩わするべからず。
産土神氏神を敬い先祖の御墓を大切にすべし。
父母を始めすべて老人を大切にすべし。但し良きものを喰わせ養するより心に苦労をかけべからず。
兄弟姉妹嫁姑に間睦かるべし。
女房の言うことを、みだりに用ゆべからず。
父母なき子、夫婦におくれし老人、かたは、病人はめぐむべし。
子孫の愛におぼれて、我儘さすべからず。
みだりに生物を殺すべからず。
すたれるものは、人も器物もなるべく用ゆべし。
村中は特に睦まじくすべし。
正直と禮を正しくすべし。
自ら働きて人をつかうべし。
人の上はいふべからず。
萬事、堪忍すべし。
難儀なる事は自分にして、易きことは人にゆずるべし。
人より仇されたらば、恩にて返すべし。
物知り顔すべからず。
豫算をたて、竈をもつべし。
朝寝、夜更すべからず。
遊藝を学ぶべからず。
ひまあらば学問すべし。
無盡を建てべからず、加入すべからず。
利益ありとて、家業の外のことすべからず。
家産は祖先のものなり。
人の保証となるべからず。
馬口勞すべからず。
大酒呑むべからず。
賭博は勿論賭け事すべからず。
煙草のむべからず。
流行に入るべからず。
深く料理を好むべからず。
地形の境を正しくすべし。
山林を大切にすべし。
貯金、飢饉、備等怠るべからず。度々取替るべからず。
組合および村中の者へ必ず貸すべからず。
この屏風を用いる婚禮と葬式は人の竈に奢りの入る時也。貢租は勿論、他に収るべきものは窮する程速にすべし。
経済會は同じ事にても、相談の上すべし。
此の事一身に行わざれば身修まらず、一家に行わざれば家衰ふ、一村に行わざれば村みだるる。慎むべし。
明治38年5月9日
於尚庵にて石川理紀之助翁記す。